からっぽのしょこ

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3.1-2:ユークリッドノルム・ユークリッド距離の性質と計算例【『スタンフォード線形代数入門』のノート】

はじめに

 『スタンフォード ベクトル・行列からはじめる最適化数学』の学習ノートです。
 「数式の行間埋め」や「Pythonを使っての再現」によって理解を目指します。本と一緒に読んでください。

 この記事は3.1節「ノルム」と3.2節「距離」の内容です。
 ユークリッドノルムとユークリッド距離の定義式を確認して、性質を導出し、内積を使った計算を確認します。

【前の内容】

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【他の内容】

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【今回の内容】

ノルムの定義

 まずは、ユークリッドノルム(euclidean norm)の定義を確認します。
 内積については、「1.4:内積の性質と計算例【『スタンフォード線形代数入門』のノート】 - からっぽのしょこ」を参照してください。

  \mathbf{x}のユークリッドノルムは、2乗和(内積)の平方根で定義されます。

 \displaystyle
\|\mathbf{x}\|
    = \sqrt{
          x_1^2 + x_2^2 + \cdots + x_n^2
      }
    = \sqrt{\mathbf{x}^{\top} \mathbf{x}}

 ユークリッドノルム(2乗和のノルム)をL2ノルムとも呼びます。

 その他のノルム(一般化したノルム)や、ノルムのグラフについては次の記事を参照してください。

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ノルムの性質

 次は、ノルムの性質を導出します。

非負同時性

 非負同時性として、次の関係が成り立ちます。

 \displaystyle
\|\beta \mathbf{x}\|
    = |\beta| \|\mathbf{x}\|

 左辺を展開して整理すると、右辺が得られます。

 \displaystyle
\begin{aligned}
\|\beta \mathbf{x}\|
   &= \left\|
          \beta
          \begin{bmatrix}
              x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n
          \end{bmatrix}
      \right\|
\\
   &= \left\|
          \begin{bmatrix}
              \beta x_1 \\ \beta x_2 \\ \vdots \\ \beta x_n
          \end{bmatrix}
      \right\|
\\
   &= \sqrt{
          (\beta x_1)^2
          + (\beta x_2)^2
          + \cdots
          + (\beta x_n)^2
      }
\\
   &= \sqrt{
          \beta^2 x_1^2
          + \beta^2 x_2^2
          + \cdots
          + \beta^2 x_n^2
      }
\\
   &= \sqrt{
          \beta^2 \Bigl(
              x_1^2 + x_2^2+ \cdots + x_n^2
          \Bigr)
      }
\\
   &= \sqrt{\beta^2}
      \sqrt{
          x_1^2 + x_2^2+ \cdots + x_n^2
      }
\\
   &= |\beta|
      \|\mathbf{x}\|
\end{aligned}

 平方根の性質 \sqrt{a b} = \sqrt{a} \sqrt{b} \sqrt{a^2} = |a|を使いました。

ノルムの計算例

 続いて、ユークリッドノルムを用いた計算例を数式で確認します。

二乗平均平方根


定義

 二乗平均は、次の式で定義されました(1.4節)。

 \displaystyle
\mathrm{ms}(\mathbf{x})
    = \frac{
          x_1^2 + x_2^2 + \cdots + x_n^2
      }{
          n
      }
    = \frac{1}{n}
      \sum_{i=1}^n
          x_i^2
    = \frac{
          \mathbf{x}^{\top} \mathbf{x}
      }{
          n
      }

 二乗平均平方根は、二乗平均の平方根で定義されます。

 \displaystyle
\begin{aligned}
\mathrm{rms}(\mathbf{x})
   &= \sqrt{\mathrm{ms}(\mathbf{x})}
\\
   &= \sqrt{
          \frac{
              x_1^2 + x_2^2 + \cdots + x_n^2
          }{
              n
          }
      }
    = \frac{1}{\sqrt{n}}
      \sqrt{
          \sum_{i=1}^n
              x_i^2
      }
\end{aligned}

  \mathbf{x}のノルムを用いて、次の式でも表せます。

 \displaystyle
\mathrm{rms}(\mathbf{x})
    = \sqrt{
          \frac{
              \mathbf{x}^{\top} \mathbf{x}
          }{
              n
          }
      }
    = \frac{
          \|\mathbf{x}\|
      }{
          \sqrt{n}
      }


性質

  \mathbf{x}の全ての要素が同じ値 a = x_1 = \cdots = x_nのとき、 \mathbf{x}は、1ベクトルのスカラー積で表わせます。

 \displaystyle
\mathbf{x}
    = \begin{bmatrix}
          x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n
      \end{bmatrix}
    = \begin{bmatrix}
          a \\ a \\ \vdots \\ a
      \end{bmatrix}
    = a
      \begin{bmatrix}
          1 \\ 1 \\ \vdots \\ 1
      \end{bmatrix}
    = a \mathbf{1}

 このとき、 \mathbf{x}のノルムは、次の式になります。

 \displaystyle
\begin{aligned}
\|\mathbf{x}\|
   &= \sqrt{
          (a \mathbf{1})^{\top} (a \mathbf{1})
      }
\\
   &= \sqrt{
          a^2 \mathbf{1}^{\top} \mathbf{1}
      }
\\
   &= \sqrt{a^2 n}
\\
   &= \sqrt{a^2}
      \sqrt{n}
\\
   &= |a|
      \sqrt{n}
\end{aligned}

 1ベクトルの内積は \mathbf{1}^{\top} \mathbf{1} = nです(1.4節)。
  \mathbf{x} = \mathbf{1}のとき( a = 1のとき) \sqrt{n}になります。

 よって、 \mathbf{x}の二乗平均平方根は、次の式になります。

 \displaystyle
\begin{aligned}
\mathrm{rms}(\mathbf{x})
   &= \frac{
          |a| \sqrt{n}
      }{
          \sqrt{n}
      }
\\
   &= |a|
\end{aligned}

  \mathbf{x} = \mathbf{1}のとき( a = 1のとき) 1になります。

和のノルム

 2つのベクトルの和のノルムは、次の式になります。

 \displaystyle
\begin{aligned}
\|\mathbf{x} + \mathbf{y}\|
   &= \sqrt{
          (\mathbf{x} + \mathbf{y})^{\top} (\mathbf{x} + \mathbf{y})
      }
\\
   &= \sqrt{
          \mathbf{x}^{\top} \mathbf{x}
          + \mathbf{x}^{\top} \mathbf{y}
          + \mathbf{y}^{\top} \mathbf{x}
          + \mathbf{y}^{\top} \mathbf{y}
      }
\\
   &= \sqrt{
          \mathbf{x}^{\top} \mathbf{x}
          + 2 \mathbf{x}^{\top} \mathbf{y}
          + \mathbf{y}^{\top} \mathbf{y}
      }
\end{aligned}

 内積の性質より、 \mathbf{x}^{\top} \mathbf{y} = \mathbf{y}^{\top} \mathbf{x}です(1.4節)。

 この記事では、ユークリッドノルムの性質を確認しました。次の記事では、ユークリッド距離の性質を確認します。

距離の定義

 まずは、ユークリッド距離(euclidean distance)の定義を確認します。

 ユークリッド距離は、ベクトルの差のユークリッドノルムで定義されます。

 \displaystyle
\mathrm{dist}(\mathbf{a}, \mathbf{b})
    = \|\mathbf{a} - \mathbf{b}\|
    = \sqrt{
          (\mathbf{a} - \mathbf{b})^{\top}
          (\mathbf{a} - \mathbf{b})
      }
    = \sqrt{
          \sum_{i=1}^n
              (a_i - b_i)^2
      }

 ユークリッド距離をL2距離とも呼びます。

距離の性質

 ユークリッド距離の性質を導出します。

対称性

 対称性として、次の関係が成り立ちます。

 \displaystyle
\mathrm{dist}(\mathbf{a}, \mathbf{b})
    = \mathrm{dist}(\mathbf{b}, \mathbf{a})

 右辺を展開すると、次の式になります。

 \displaystyle
\begin{aligned}
\mathrm{dist}(\mathbf{a}, \mathbf{b})
   &= \sqrt{
          (\mathbf{a} - \mathbf{b})^{\top}
          (\mathbf{a} - \mathbf{b})
      }
\\
   &= \sqrt{
          \mathbf{a}^{\top} \mathbf{a}
          - \mathbf{a}^{\top} \mathbf{b}
          - \mathbf{b}^{\top} \mathbf{a}
          + \mathbf{b}^{\top} \mathbf{b}
      }
\\
   &= \sqrt{
          \mathbf{a}^{\top} \mathbf{a}
          - 2 \mathbf{a}^{\top} \mathbf{b}
          + \mathbf{b}^{\top} \mathbf{b}
      }
\end{aligned}

 内積の性質より、 \mathbf{a}^{\top} \mathbf{b} = \mathbf{b}^{\top} \mathbf{a}です。
 同様に右辺を展開すると、次の式になります。

 \displaystyle
\begin{aligned}
\mathrm{dist}(\mathbf{b}, \mathbf{a})
   &= \sqrt{
          (\mathbf{b} - \mathbf{a})^{\top}
          (\mathbf{b} - \mathbf{a})
      }
\\
   &= \sqrt{
          \mathbf{b}^{\top} \mathbf{b}
          - \mathbf{b}^{\top} \mathbf{a}
          - \mathbf{a}^{\top} \mathbf{b}
          + \mathbf{a}^{\top} \mathbf{a}
      }
\\
   &= \sqrt{
          \mathbf{a}^{\top} \mathbf{a}
          - 2 \mathbf{a}^{\top} \mathbf{b}
          + \mathbf{b}^{\top} \mathbf{b}
      }
\end{aligned}

 両辺が一致しました。

 この記事では、ユークリッド距離の定義と性質を確認しました。次の記事では、ユークリッドノルムを作図します。

参考書籍

  • Stephen Boyd・Lieven Vandenberghe(著),玉木 徹(訳)『スタンフォード ベクトル・行列からはじめる最適化数学』講談社サイエンティク,2021年.

おわりに

 距離に関して書くことが少なすぎたのでくっつけました。節の区切りとしては都合が悪いですが、内容的には一緒の方が分かりやすいかもしれません。
 三角不等式についてはルートの不等式の操作がよく分からなかったので飛ばしました。読み終わる頃には導けるようになってたりしないかな。

 さてこの記事の投稿日に公開された新曲を聴きましょうか。

 まぁ可愛い。キメキメな格好良さも魅力だけど、やっぱり楽しそうな笑顔が好き。

【次の内容】

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