からっぽのしょこ

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【R】7.2:イジング模型【ゼロからMCMCのノート】

はじめに

 『ゼロからできるMCMC』の図とサンプルコードをR言語で再現します。本と一緒に読んでください。

 この記事は、7.2節の内容です。2次元の正方格子のイジングモデルをメトロポリス法・ギブスサンプリング・Wolffのアルゴリズムを用いてシミュレーションします。

【前の章の内容】

飛ばした

【他の章の内容】

www.anarchive-beta.com

【この章の内容】


 この節で利用するパッケージを読み込みます。

# 7.2節で利用するパッケージ
library(tidyverse)
library(gganimate)

 gganimateは、gif画像を作成するパッケージです。シミュレーションの過程をアニメーションで確認するのに使います。

7.2.1 メトロポリス法

 メトロポリス法を用いたイジングモデルを実装します。

・エネルギーの計算

 まずは、スピン全体$\{s\}$のエネルギー$E(\{s\})$を計算する関数を作成しておきます。計算式は

$$ E(\{s\}) = - J \sum_{\langle i,j \rangle} s_i s_j - h \sum_{i=1} s_i \tag{7.45} $$

です。ここで、$s_i$は$i$番目の格子上のスピンであり、$\langle i,j \rangle$は隣接するスピンの組を表します。
 この資料で扱う2次元の正方格子の場合は

$$ E(\{s\}) = - J \left( \sum_{i_y=1}^N \sum_{i_x=1}^N s_{i_y, i_x} s_{i_y \pm 1, i_x} + s_{i_y, i_x} s_{i_y, i_x \pm 1} \right) - h \sum_{i_y=1}^N \sum_{i_x=1}^N s_{i_y, i_x} $$

となります(たぶん)。ここで$i$番目のスピン$s_i$のy軸座標を$i_y$、x軸座標を$i_x$で表すことにします。$N$は1辺のスピン(あるいは格子点)の数で、スピンは全部で$N^2$個あります。
 要するに、前の項は行方向に並ぶ2つのスピンの積と列方向に並ぶ2つのスピンの積の総和に$-J$を掛けたもので、後の項は全てのスピンの和に$-h$を掛けたものです。

 この計算式を、(愚直に)関数として定義すると次のようになります。

# エネルギーの計算関数を作成:式(7.45)
fn_E <- function(spin_mat, J = 1, h = 0) {
  # 1辺のスピン数を取得
  N <- nrow(spin_mat)
  
  # 変数を初期化
  sum_s_i <- 0  # 全てのスピンの和
  sum_s_ij <- 0 # 隣接する全ての組み合わせのスピンの積の和
  
  # 列インデックスを順番に生成
  for(i_x in 1:N) {
    # 右隣のインデックスを取得
    i_x_plus <- i_x + 1
    
    # 行インデックスを順番に生成
    for(i_y in 1:N) {
      # 下隣のインデックスを取得
      i_y_plus <- i_y + 1
      
      # i番目のスピンを加算
      sum_s_i <- sum_s_i + spin_mat[i_y, i_x]
      
      # i番目と右隣のスピンとの積を加算
      if(i_x < N) { # N列目のとき右隣はない
        sum_s_ij <- sum_s_ij + spin_mat[i_y, i_x] * spin_mat[i_y, i_x_plus]
      }
      
      # i番目と下隣のスピンとの積を加算
      if(i_y < N) { # N行目のとき下隣はない
        sum_s_ij <- sum_s_ij + spin_mat[i_y, i_x] * spin_mat[i_y_plus, i_x]
      }
    }
  }
  
  # エネルギーを計算:式(7.45)
  energy <- - J * sum_s_ij - h * sum_s_i
  return(energy)
}

 次項では、もう少し処理効率がよくなるように定義します。(C++での実装例がこんな感じでした。)

 ただしメトロポリス法においては、$k$回目の試行時のスピン$\{s^{(k)}\}$のエネルギー$E(\{s^{(k)}\})$と、$i$番目のスピン$s_{i_x,i_y}$を反転させたエネルギー$E(\{s'\})$との差

$$ \Delta E = E(\{s'\}) - E(\{s^{(k)}\}) $$

を求める際に、式(7.45)の計算を行います。
 反転させたスピンを$s'_{i_y,i_x}$で表すことにすると、この式は、$i$番目に関する項以外は同じものなので打ち消されて

$$ \begin{aligned} \Delta E &= \left\{ - J \left( \sum_{\pm 1} s'_{i_y, i_x} s_{i_y \pm 1, i_x} + s'_{i_y, i_x} s_{i_y, i_x \pm 1} \right) - h s'_{i_y, i_x} \right\} - \left\{ - J \left( \sum_{\pm 1} s_{i_y, i_x} s_{i_y \pm 1, i_x} + s_{i_y, i_x} s_{i_y, i_x \pm 1} \right) - h s_{i_y, i_x} \right\} \\ &= \left\{ - J \left( \sum_{\pm 1} s_{i_y \pm 1, i_x} + s_{i_y, i_x \pm 1} \right) - h \right\} s'_{i_y, i_x} + \left\{ J \left( \sum_{\pm 1} s_{i_y \pm 1, i_x} + s_{i_y, i_x \pm 1} \right) + h \right\} s_{i_y, i_x} \end{aligned} $$

と整理できます。さらに$s'_{i_y, i_x} = - s_{i_y, i_x}$なので、置き換えると

$$ \begin{align} \Delta E &= \left\{ J \left( \sum_{\pm 1} s_{i_y \pm 1, i_x} + s_{i_y, i_x \pm 1} \right) + h \right\} s_{i_y, i_x} + \left\{ J \left( \sum_{\pm 1} s_{i_y \pm 1, i_x} + s_{i_y, i_x \pm 1} \right) + h \right\} s_{i_y, i_x} \\ &= 2 \left\{ J \left( \sum_{\pm 1} s_{i_y \pm 1, i_x} + s_{i_y, i_x \pm 1} \right) + h \right\} s_{i_y, i_x} \tag{7.50} \end{align} $$

となります。

 よって$\Delta E$の計算式(7.50)を実装してシミュレーションすればいいのですが、少々アルゴリズムがシンプルになりすぎてしまいます。そこでメトロポリス法のアルゴリズムを明示的に実装するために、$i$番目のスピンに関するエネルギーの計算式

$$ \left\{ - J \left( \sum_{\pm 1} s_{i_y \pm 1, i_x} + s_{i_y, i_x \pm 1} \right) - h \right\} s_{i_y, i_x} = - J \left( \sum_{\pm 1} s_{i_y, i_x} s_{i_y \pm 1, i_x} + s_{i_y, i_x} s_{i_y, i_x \pm 1} \right) - h s_{i_y, i_x} \tag{7.49} $$

を関数定義して、シミュレーションに用いることにします。$\sum_{\pm 1} s_{i_y \pm 1, i_x} + s_{i_y, i_x \pm 1}$は、$s_{i_y-1, i_x} + s_{i_y+1, i_x} + s_{i_y, i_x-1} + s_{i_y, i_x+1}$のことです。

# エネルギーの計算関数を作成:式(7.49)
fn_simpleE <- function(spin_mat, J = 1, h = 0) {
  # 1辺のスピン数を取得
  N <- nrow(spin_mat)
  
  # 隣接する全ての組み合わせのスピンの積の和を初期化
  sum_s_ij <- 0
  
  # i番目と右隣のスピンとの積を加算
  if(i_x < N) { # N列目のとき右隣はない
    sum_s_ij <- sum_s_ij + spin_mat[i_y, i_x] * spin_mat[i_y, i_x + 1]
  }
  
  # i番目と下隣のスピンとの積を加算
  if(i_y < N) { # N行目のとき下隣はない
    sum_s_ij <- sum_s_ij + spin_mat[i_y, i_x] * spin_mat[i_y + 1, i_x]
  }

  # i番目と左隣のスピンとの積を加算
  if(i_x > 1) { # N列目のとき左隣はない
    sum_s_ij <- sum_s_ij + spin_mat[i_y, i_x] * spin_mat[i_y, i_x - 1]
  }
  
  # i番目と上隣のスピンとの積を加算
  if(i_y > 1) { # N行目のとき上隣はない
    sum_s_ij <- sum_s_ij + spin_mat[i_y, i_x] * spin_mat[i_y - 1, i_x]
  }
  
  # エネルギーを計算:式(7.45)
  energy <- - J * sum_s_ij - h * spin_mat[i_y, i_x]
  return(energy)
}

 この関数をfn_simpleE()としました。fn_simpleE()を、最初に作成した(あるいは次項で作成する)fn_E()にsそのまま置き換えてもシミュレーションできます。

 ちなみに、本では周期境界条件を仮定していますが、(「有限体積の効果を減らすために」の意味がよく分からなかったので)この例では仮定していません(N行・列ごとに周期しているとした方が実装が楽な気はしました)。

・初期値の設定

 続いて、一辺当たりのスピンの数$N$を設定して、スピンの初期値を生成します。

# 1辺のスピン数を指定
N <- 100

# スピンのマトリクスを初期化
spin_mat <- matrix(sample(x = c(-1, 1), size = N^2, replace = TRUE), nrow = N, ncol = N)

# 確認
spin_mat[1:5, 1:5]
##      [,1] [,2] [,3] [,4] [,5]
## [1,]    1   -1   -1    1    1
## [2,]    1    1    1   -1    1
## [3,]   -1    1   -1    1   -1
## [4,]    1   -1    1    1    1
## [5,]   -1   -1    1    1    1

 $N^2$個の-11をランダムに生成して、$N \times N$のマトリクスを作成します。

 これを作図用にデータフレームに格納します。

# 作図用にスピンのデータフレームを作成
spin_df <- tibble(
  i_y = rep(1:N, times = N), 
  i_x = rep(1:N, each = N), 
  spin = as.vector(spin_mat), 
  label = as.factor(paste0("iter:", 0, ", rate:", sum(spin_mat) / N^2))
)

# 確認
head(spin_df)
## # A tibble: 6 x 4
##     i_y   i_x  spin label               
## # A tibble: 6 x 4
##     i_y   i_x  spin label              
##   <int> <int> <dbl> <fct>              
## 1     1     1     1 iter:0, rate:0.0102
## 2     2     1     1 iter:0, rate:0.0102
## 3     3     1    -1 iter:0, rate:0.0102
## 4     4     1     1 iter:0, rate:0.0102
## 5     5     1    -1 iter:0, rate:0.0102
## 6     6     1     1 iter:0, rate:0.0102

 $N^2$個のスピン(格子点)の座標の組み合わせを作成します。1からNの値をrep()で複製します。y軸の値は、times引数によって全体をN回繰り返すように複製します。x軸の値は、each引数によって要素ごとにN個に複製します。(expand.grid()という関数があるのをさっき知った、、、)
 label列は、gif画像を作成するのに利用します。

 このデータフレームを用いて作図します。

# 初期値を作図
ggplot(spin_df, aes(x = i_x, y = i_y, fill = spin)) + 
  geom_tile() + # ヒートマップ
  scale_fill_gradient(low = "red", high = "yellow", 
                      breaks = c(-1, 1), guide = guide_legend()) + # タイルの色
  coord_fixed(ratio = 1) + # アスペクト比
  labs(subtitle = paste0("rate:", sum(spin_mat) / N^2))

 geom_tile()でヒートマップを作成します。spin_matにおいてy軸番号($i_y = 1, \cdots, N$)は下方向に並んでいますが、ヒートマップにおいては上方向に並びます(aes()y引数に-i_yを渡すと下方向に並べられます(ただしy軸の値が0から-Nになります))。

スピンの初期値


・メトロポリス法によるシミュレーション

 パラメータを設定します。

# パラメータを指定
J <- 1
h <- 0
temperature <- 2

 結合定数$J$をJ、外部磁場$h$をh、温度$T$をtemperatureとします。

 $N^2$個のスピンごとを1試行とします。更新するスピンは、順番に決めることもランダムに決めることもできます。
 スピンの総和$\sum_{i_y=1}^N \sum_{i_x=1}^N s_{i_y,i_x}$の絶対値とその最大値$N^2$との割合が指定した値を越えるまで繰り返します。ただし収束しない場合のため、最大試行回数を指定してその回数に達したらbreakで終了します。

# 最大試行回数を指定
max_iter <- 100

# 試行回数を初期化
iter <- 0

# メトロポリス法
while(abs(sum(spin_mat)) / N^2 < 0.9) { # 指定したレートに達するまで
  # 試行回数を加算
  iter <- iter + 1
  
  # 更新するスピン番号を生成
  i_vec <- 1:N^2 # 順番に選択
  #i_vec <- sample(1:N^2, size = N^2, replace = FALSE) # 順番をランダムに選択
  #i_vec <- sample(1:N^2, size = N^2, replace = TRUE) # ランダムに選択
  
  # 1試行における更新回数を初期化
  n_accept <- 0
  
  # 配位を更新
  for(i in i_vec) {
    # スピンのインデックスを計算
    i_y <- ifelse(i %% N == 0, yes = N, no = i %% N) # 行番号
    i_x <- (i - 1) %/% N + 1 # 列番号
    
    # エネルギーを計算:式(7.49)
    energy <- fn_simpleE(spin_mat, J, h)
    
    # i番目のスピンを反転させたマトリクスを作成
    spin_dash_mat <- spin_mat
    spin_dash_mat[i_y, i_x] <- spin_dash_mat[i_y, i_x] * (-1)
    
    # エネルギーを計算:式(7.49)
    energy_dash <- fn_simpleE(spin_dash_mat, J, h)
    
    # 判定用の確率値を計算:式(4.46')
    prob <- exp((energy - energy_dash) / temperature)
    
    # テスト値を生成
    metropolis <- runif(n = 1, min = 0, max = 1)
    
    # メトロポリステストにより配位を更新
    if(prob > metropolis) {
      # スピンを更新
      spin_mat <- spin_dash_mat
      
      # 更新回数を加算
      n_accept <- n_accept + 1
    }
}
  
  # スピンのデータフレームを作成
  tmp_spin_df <- tibble(
    i_y = rep(1:N, times= N), 
    i_x = rep(1:N, each= N), 
    spin = as.vector(spin_mat), 
    label = as.factor(paste0(
      "J=", J, ", h=", h, ", T=", temperature, 
      ", iter:", iter, ", rate:", sum(spin_mat) / N^2
    ))
  )
  
  # 結果を結合
  spin_df <- rbind(spin_df, tmp_spin_df)
  
  # 途中経過を表示
  #print(paste0("iter:", iter, ", accept:", n_accept, ", rate:", sum(spin_mat) / N^2))
  
  # 最大回数に達したら終了
  if(iter == max_iter) break
}

 まずは、スピン番号$i$から座標$i_y, i_x$に変換します(もっといい方法があれば教えて下さい)。
 1から$N^2$番目までのスピンを順番に更新する場合は、spin_matの1列目の要素を1行目からN行まで更新し、次に2列目の要素を1からN行と更新していきます。

 続いて、現在のスピンspin_matのエネルギーをfn_simpleE()で計算して、energyとします。

 spin_matのコピーをspin_dash_matとし、$i$番目のスピンspin_dash_mat[i_y, i_x]-1を掛けて反転させます。同様にエネルギーを計算してenergy_dashとします。

 最後に、$\exp(- \beta \Delta E)$の計算によって求めた確率値(として解釈できる値)pが、0から1の一様乱数metropolisよりも大きいとき、スピンspin_matを、反転させたスピンspin_dash_matに更新します。
 更新前のスピンspin_matは$\{s^{(k)}\}$、spin_dash_matは$\{s'\}$、更新後のスピンspin_matは$\{s^{(k+1)}\}$に対応します。更新されなかった(条件を満たさなかった)場合もspin_matをそのまま$\{s^{(k+1)}\}$として次の試行を行います。

・結果の確認

 最終結果を作図します。

# 最終結果を作図
ggplot(tmp_spin_df, aes(x = i_x, y = i_y, fill = spin)) + 
  geom_tile() + # ヒートマップ
  scale_fill_gradient(low = "red", high = "yellow", 
                      breaks = c(-1, 1), guide = guide_legend()) + # タイルの色
  coord_fixed(ratio = 1) + # アスペクト比
  labs(title = "Metropolis Method", 
       subtitle = paste0("J=", J, ", h=", h, ", T=", temperature, 
                         ", iter:", iter, ", rate:", sum(spin_mat) / N^2))

最終結果

 パラメータによって変化の仕方が異なります。

・アニメーションの作成

 シミュレーションの推移をアニメーション(gif画像)で確認するためのコードです。

# アニメーション用のグラフを作成
graph <- ggplot(spin_df, aes(x = i_x, y = i_y, fill = spin)) + 
  geom_tile() + # ヒートマップ
  scale_fill_gradient(low = "red", high = "yellow", 
                      breaks = c(-1, 1), guide = guide_legend()) + # タイルの色
  coord_fixed(ratio = 1) + # アスペクト比
  gganimate::transition_manual(label) + # フレーム
  labs(title = "Metropolis Method", 
       subtitle = "{current_frame}")

# gif画像を出力
gganimate::animate(graph, nframes = iter + 1, fps = 10)

 表示する順番を示す列をgganimate::transition_manual()に指定します。

 初期値を含むためフレーム数nframesiter+1です。

 他のアルゴリズムの結果もこのコードでgif画像に変換できます。

メトロポリス法によるシミュレーション

・他のパラメータでのシミュレーション

 $h$に従ってスピンが上下どちらの向きに揃うのかが決まります。$h = 0$のときはランダムに決まります。右の結果は、更新するスピンの順番をランダムに選んだものです。
 パラメータによっては、収束しないこともあります。

・収束後の変化

メトロポリス法によるシミュレーション

 ちなみに収束後も続けるとこんな感じになります。

7.2.2 ギブスサンプリング

 ギブスサンプリングを用いたイジングモデルを実装します。

・エネルギーの計算

 まずは、エネルギーの計算式(7.45)を関数として定義しておきます。

# エネルギーの計算関数を作成:式(7.45)
fn_E <- function(spin_mat, J = 1, h = 0) {
  # 1辺のスピン数を取得
  N <- nrow(spin_mat)
  
  # 全てのスピンの和
  sum_s_i <- sum(spin_mat)
  
  # 右隣のスピンとの積の和
  sum_s_ij_x <- sum(spin_mat[, -N] * spin_mat[, -1])
  
  # 下隣のスピンとの積の和
  sum_s_ij_y <- sum(spin_mat[-1, ] * spin_mat[-N, ])
  
  # エネルギーを計算:式(7.45)
  energy <- - J * (sum_s_ij_x + sum_s_ij_y) - h * sum_s_i
  return(energy)
}

 列方向に並ぶ2つのスピンの積$s_{i_y,i_x} s_{i_y,i_x+1}$は、N列目を除くspin_mat[, -N]と1列目を除くspin_mat[, -1]の積で一度に計算できます。同様に行方向に並ぶ2つのスピンの積$s_{i_y,i_x} s_{i_y+1,i_x}$は、1行目を除くspin_mat[-1, ]とN行目を除くspin_mat[-N, ]の積です。この2つ計算結果の総和が式(7.45)の$\sum_{\langle i,j \rangle} s_i s_j$に対応します。
 (周期境界条件を置く場合は、spin_mat * spin_mat[, c(2:N, 1)]spin_mat * spin_mat[c(2:N, 1), ]で計算できます。)

・初期値の設定

 前項と同様にして、スピンの初期化します。

スピンの初期値


・ギブスサンプリングによるシミュレーション

 パラメータを指定して、シミュレーションを行います。

# パラメータを指定
J <- 1
h <- 0
temperature <- 2

# 最大試行回数を指定
max_iter <- 100

# 試行回数を初期化
iter <- 0

# ギブスサンプリング
while(abs(sum(spin_mat)) / N^2 < 0.9) { # 指定したレートに達するまで
  # 試行回数を加算
  iter <- iter + 1
  
  # 更新するスピン番号を生成
  i_vec <- 1:N^2 # 順番に選択
  #i_vec <- sample(1:N^2, size = N^2, replace = FALSE) # 順番をランダムに選択
  #i_vec <- sample(1:N^2, size = N^2, replace = TRUE) # ランダムに選択
  
  # 配位を更新
  for(i in i_vec) {
    # スピンのインデックスを計算
    i_y <- ifelse(i %% N == 0, yes = N, no = i %% N) # 行番号
    i_x <- (i - 1) %/% N + 1 # 列番号
    
    # i番目のスピンを反転させたマトリクスを作成
    spin_plus_mat <- spin_mat
    spin_plus_mat[i_y, i_x] <- 1
    spin_minus_mat <- spin_mat
    spin_minus_mat[i_y, i_x] <- -1
    
    # エネルギーを計算:式(7.45)と式(7.46)の分子の指数部分
    energy_plus  <- - fn_E(spin_plus_mat, J, h) / temperature
    energy_minus <- - fn_E(spin_minus_mat, J, h) / temperature
    
    # エネルギーの指数を計算:式(7.46)の分子
    if(max(energy_plus, energy_minus) > 700) {
      # 最大値を取得
      max_energy <- max(energy_plus, energy_minus)
      
      # オーバーフロー対策
      exp_energy_plus  <- exp(energy_plus - max_energy)
      exp_energy_minus <- exp(energy_minus - max_energy)
    } else if(min(energy_plus, energy_minus) < - 700) {
      # 最小値を取得
      min_energy <- min(energy_plus, energy_minus)
      
      # アンダーフロー対策
      exp_energy_plus  <- exp(energy_plus - min_energy)
      exp_energy_minus <- exp(energy_minus - min_energy)
    } else {
      exp_energy_plus  <- exp(energy_plus)
      exp_energy_minus <- exp(energy_minus)
    }
    
    # 確率を計算:式(7.46)
    p_plus <- exp_energy_plus / (exp_energy_plus + exp_energy_minus)
    p_minus <- exp_energy_minus / (exp_energy_plus + exp_energy_minus)
    
    # 確率に従いスピンを更新
    spin_mat[i_y, i_x] <- sample(c(-1, 1), size = 1, prob = c(p_minus, p_plus))
  }
  
  # スピンのデータフレームを作成
  tmp_spin_df <- tibble(
    i_y = rep(1:N, each = N), 
    i_x = rep(1:N, times = N), 
    spin = as.vector(spin_mat), 
    label = as.factor(paste0(
      "J=", J, ", h=", h, ", T=", temperature, 
      ", iter:", iter, ", rate:", sum(spin_mat) / N^2
    ))
  )
  
  # 結果を結合
  spin_df <- rbind(spin_df, tmp_spin_df)
  
  # 途中経過を表示
  #print(paste0("iter:", iter, ", rate:", sum(spin_mat) / N^2))
  
  # 最大回数に達したら終了
  if(iter == max_iter) break
}

 $i$番目の要素(スピン)$s_{i_y,i_x}$を-1にしたものと1にした2つのマトリクスを作成します。
 それぞれ$- \beta E(\{s\})$の計算をします。(次のオーバー(アンダー)フロー対策のため、エネルギー$E(\{s\})$ではなく指数をとる手前まで計算しておきます。)

 exp()に関して、700ちょっと(-700ちょっと)でInf(0)になってしまいました。そこでenergy_plus, energy_minusの値によって、オーバーフロー(アンダーフロー)対策として最大値(最小値)を引いてから$\exp(- \beta E(\{s^{(\pm)}\}))$の計算をしています。

 最後に、$i$番目のスピンの値を、確率p_plus1、確率p_minus-1として確率的に更新します。p_plus, p_minusはそれぞれ

$$ \begin{aligned} P(\{s^{(+)}\}) &= \frac{ \exp \Bigl(- \beta E(\{s^{(+)}\}) \Bigr) }{ \exp \Bigl(- \beta E(\{s^{(+)}\}) \Bigr) + \exp \Bigl(- \beta E(\{s^{(-)}\}) \Bigr) } \\ P(\{s^{(-)}\}) &= \frac{ \exp \Bigl(- \beta E(\{s^{(-)}\}) \Bigr) }{ \exp \Bigl(- \beta E(\{s^{(+)}\}) \Bigr) + \exp \Bigl(- \beta E(\{s^{(-)}\}) \Bigr) } \end{aligned} \tag{7.46} $$

で計算します。分母は、分配関数$Z = \exp(- \beta E(\{s^{(+)}\})) + \exp(- \beta E(\{s^{(-)}\}))$に対応しており、総和が1になるように正規化しています。

・結果の確認

# 最終結果を作図
ggplot(tmp_spin_df, aes(x = i_x, y = i_y, fill = spin)) + 
  geom_tile() + # ヒートマップ
  scale_fill_gradient(low = "red", high = "yellow", 
                      breaks = c(-1, 1), guide = guide_legend()) + # タイルの色
  coord_fixed(ratio = 1) + # アスペクト比
  labs(title = "Gibbs Sampling", 
       subtitle = paste0("J=", J, ", h=", h, ", T=", temperature, 
                         ", iter:", iter, ", rate:", sum(spin_mat) / N^2))

最終結果

ギブスサンプリングによるシミュレーション


・他のパラメータでのシミュレーション

 右の結果は、更新するスピンの順番をランダムに選んだものです。

・収束後の変化

ギブスサンプリングによるシミュレーション


7.2.5 Wolffのアルゴリズム

 Wolffアルゴリズムを用いたイジングモデルを実装します。

・初期値の設定

 これまでと同様にして、スピンの初期化します。

スピンの初期値


・Wolffアルゴリズムによるシミュレーション

 パラメータを設定して、隣接するスピンをクラスターに含めるかの判定に用いる確率値を計算します。

# パラメータを指定
J <- 1
h <- 0.5
temperature <- 2

# クラスタの追加判定用の確率値を計算
prob <- 1 - exp(-2 * J / temperature)
prob
## [1] 0.7364029

 確率値は、$1 - \exp(-2\frac{J}{T})$で計算します。

 シミュレーションを行います。

# 最大試行回数を指定
max_iter <- 100

# 試行回数を初期化
iter <- 0

# Wolffアルゴリズム
while(abs(sum(spin_mat)) / N^2 < 0.95) { # 指定したレートに達するまで
  # 試行回数を加算
  iter <- iter + 1

  # クラスタのマトリクスを初期化
  cluster_mat <- matrix(1, nrow = N, ncol = N)
  
  # クラスタの起点となるスピンのインデックスを生成
  i_y <- sample(x = 1:N, size = 1)
  i_x <- sample(x = 1:N, size = 1)
  
  # 起点のクラスタを設定
  cluster_mat[i_y, i_x] <- 0
  
  # 起点のクラスタのスピンを取得
  spin_cluster <- spin_mat[i_y, i_x]
  
  # クラスタのインデックスを記録
  cluster_idx_mat <- matrix(c(i_y, i_x), nrow = 1, ncol = 2)
  
  # クラスタ数を初期化
  n_cluster <- 1
  
  # 処理済みのクラスタ数を初期化
  k <- 0
  
  # 配位を更新
  while(k < n_cluster) {
    # 処理済みのクラスタ数を加算
    k <- k + 1
    
    # クラスタのインデックスを取得
    i_y <- cluster_idx_mat[k, 1]
    i_x <- cluster_idx_mat[k, 2]
    
    # 隣接するインデックスを計算
    i_y_plus <- i_y + 1
    i_x_plus <- i_x + 1
    i_y_minus <- i_y - 1
    i_x_minus <- i_x - 1
    
    # 上隣を処理
    if(i_y_minus >= 1) { # 枠内である
      if(spin_mat[i_y_minus, i_x] == spin_cluster) { # 現クラスタと同じスピンである
        if(cluster_mat[i_y_minus, i_x] == 1) { # 未処理である
          # 判定用の確率値を生成
          r <- runif(n = 1, min = 0, max = 1)
          if(prob > r) { # 確率で判定
            # クラスタを追加
            cluster_mat[i_y_minus, i_x] <- 0
            
            # 新たなクラスタのインデックスを記録
            cluster_idx_mat <- rbind(cluster_idx_mat, c(i_y_minus, i_x))
            
            # クラスタ数を加算
            n_cluster <- n_cluster + 1
          }
        }
      }
    }
    
    # 下隣を処理
    if(i_y_plus <= N) { # 枠内である
      if(spin_mat[i_y_plus, i_x] == spin_cluster) { # 現クラスタと同じスピンである
        if(cluster_mat[i_y_plus, i_x] == 1) { # 未処理である
          # 判定用の確率値を生成
          r <- runif(n = 1, min = 0, max = 1)
          if(prob > r) { # 確率で判定
            # クラスタを追加
            cluster_mat[i_y_plus, i_x] <- 0
            
            # 新たなクラスタのインデックスを記録
            cluster_idx_mat <- rbind(cluster_idx_mat, c(i_y_plus, i_x))
            
            # クラスタ数を加算
            n_cluster <- n_cluster + 1
          }
        }
      }
    }
    
    # 左隣を処理
    if(i_x_minus >= 1) { # 枠内である
      if(spin_mat[i_y, i_x_minus] == spin_cluster) { # 現クラスタと同じスピンである
        if(cluster_mat[i_y, i_x_minus] == 1) { # 未処理である
          r <- runif(n = 1, min = 0, max = 1)
          if(prob > r) { # 確率で判定
            # クラスタを追加
            cluster_mat[i_y, i_x_minus] <- 0
            
            # 新たなクラスタのインデックスを記録
            cluster_idx_mat <- rbind(cluster_idx_mat, c(i_y, i_x_minus))
          
            # クラスタ数を加算
            n_cluster <- n_cluster + 1
          }
        }
      }
    }
    
    # 右隣を処理
    if(i_x_plus <= N) { # 枠内である
      if(spin_mat[i_y, i_x_plus] == spin_cluster) { # 現クラスタと同じスピンである
        if(cluster_mat[i_y, i_x_plus] == 1) { # 未処理である
          # 判定用の確率値を生成
          r <- runif(n = 1, min = 0, max = 1)
          if(prob > r) { # 確率で判定
            # クラスタを追加
            cluster_mat[i_y, i_x_plus] <- 0
            
            # 新たなクラスタのインデックスを記録
            cluster_idx_mat <- rbind(cluster_idx_mat, c(i_y, i_x_plus))
            
            # クラスタ数を加算
            n_cluster <- n_cluster + 1
          }
        }
      }
    }
  
  }
  
  # クラスタのスピンを反転
  spin_mat[cluster_mat == 0] <- spin_cluster * (-1)
  
  # スピンのデータフレームを作成
  tmp_spin_df <- tibble(
    i_y = rep(1:N, each = N), 
    i_x = rep(1:N, times = N), 
    spin = as.vector(spin_mat), 
    label = as.factor(paste0(
      "J=", J, ", h=", h, ", T=", temperature, 
      ", iter:", iter, ", rate:", sum(spin_mat) / N^2
    ))
  )
  
  # 結果を結合
  spin_df <- rbind(spin_df, tmp_spin_df)
  
  # 結果を表示
  #print(paste0("iter:", iter, ", cluster:", k, ", rate:", sum(spin_mat) / N^2))
  
  # 最大回数に達したら終了
  if(iter == max_iter) break
}

 (かなり愚直に処理する実装になってしまいました。メインループの4つの処理を関数化したかったのですが、条件式と返り値が多くて思いつきませんでした。)

 クラスタに含まれている各スピン$s_{i_y,i_x}$に関して、その上下左右のスピン$s_{i_y-1,i_x}, s_{i_y+1,i_x} , s_{i_y,i_x-1}, s_{i_y,i_x+1}$もクラスタに含めるかどうかを確率的に決めていきます。

 各スピンがクラスタに含まれているかどうかをcluster_matで管理します。cluster_matの要素はspin_matに対応しており、各スピンがクラスタに含まれていれば0、含まれていなければ1とします。
 初期値は全て1で、スピンがクラスタとして選ばれるたびに値を0に置き換えます。

 スピンがクラスタに選ばれると、選ばれたスピンのインデックスをcluster_idx_matに行方向に結合していきます。

 またクラスタ数をn_clusterとしてカウントします。

 隣接するスピンをクラスタに加えるかを、条件式で判定します。
 この例では周期境界条件をおいていないので、隣接するスピンが存在するかを調べます。
 隣接するスピンが対象とのスピンと同じ値(向き)である必要があります。
 既にクラスタに含まれている場合は処理を止めます。
 3つの条件を満たす場合に、0から1の一様乱数を生成します。この乱数rをよりもパラメータから求めた確率probが大きいとき、隣接するスピンをクラスタに加えます。

 現在対象としているスピンに関する処理が終わると、cluster_idx_matから次のスピンのインデックスを受け取り同じ作業を行います。

 処理済みのクラスタ数kn_clusterに達すれば、クラスタの追加作業が完了です。クラスタに含まれた全てのスピンを反転させて、1回の試行を終了します。

・結果の確認

# 最終結果を作図
ggplot(tmp_spin_df, aes(x = i_x, y = i_y, fill = spin)) + 
  geom_tile() + # ヒートマップ
  scale_fill_gradient(low = "red", high = "yellow", 
                      breaks = c(-1, 1), guide = guide_legend()) + # タイルの色
  coord_fixed(ratio = 1) + # アスペクト比
  labs(title = "Wolff Algorithm", 
       subtitle = paste0("J=", J, ", h=", h, ", T=", temperature, 
                         ", iter:", iter, ", rate:", sum(spin_mat) / N^2))

最終結果


Wolffアルゴリズムによるシミュレーション

・他のパラメータでのシミュレーション

 右の結果は、更新するスピンの順番をランダムに選んだものです。

・収束後の変化

Wolffアルゴリズムによるシミュレーション

 反転を続けるようです。

参考文献

  • 花田政範・松浦壮『ゼロからできるMCMC』講談社,2020年.

おわりに

 面白そうだったので、6章を飛ばしてこれを先にやってみました。しかしやっぱり物理学にまで手を広げる気はないなぁ。

 ここまで来てようやく雰囲気を掴めた気がします。メトロポリス法は、更新前後の状態を基にした確率に従って更新される。ギブスサンプリングは、とり得る各状態を基にした確率に従って更新される。という理解でいいのかな。Wolffアルゴリズムは、イジングモデルにおける効率的な処理方法ですね。

 はいっ!3月6日は、Berryz工房・カントリーガールズ・Buono!の元メンバー嗣永桃子さんのお誕生日です♪

 私はBuono!が特に好きなのですが、ハマったのが解散2か月後でした、、、あぁ一度でいいからライブに参加したい。

【次の節の内容】

つづくはず