はじめに
機械学習で登場する確率分布について色々な角度から理解したいシリーズです。
この記事では、R言語で分散共分散行列と相関行列を変換する計算をします。
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分散共分散行列と相関行列の関係の実装
分散共分散行列(Variance–Covariance Matrix)と相関行列(Correlation Matrix)の関係を計算で確認します。計算式については「分散共分散行列と相関行列の関係の導出 - からっぽのしょこ」を参照してください。
この記事では、magrittr
パッケージのパイプ演算子%>%
ではなく、ベースパイプ(ネイティブパイプ)演算子|>
を使っています。%>%
に置き換えても処理できます。
分散共分散行列の設定
まずは、分散共分散行列を設定します。
分散共分散行列$\boldsymbol{\Sigma}$を作成します。
# 次元数を指定 D <- 3 # 分散共分散行列を指定 sigma_dd <- c( 4, 1.8, -0.1, 1.8, 9, 2.4, -0.1, 2.4, 1 ) |> # 値を指定 matrix(nrow = D, ncol = D, byrow = TRUE) # マトリクスに変換 sigma_dd
## [,1] [,2] [,3] ## [1,] 4.0 1.8 -0.1 ## [2,] 1.8 9.0 2.4 ## [3,] -0.1 2.4 1.0
$D \times D$の正定値行列を指定します。
$D$次元ベクトルの変数を$\mathbf{x} = (x_1, x_2, \cdots, x_D)^{\top}$とすると、$\sigma_d$は$x_d$の標準偏差、$\sigma_d^2 = \sigma_{d,d}$は$x_d$の分散、$\sigma_{i,j} = \sigma_{j,i}$は$x_i, x_j$の共分散です。
$\sigma_d^2$は正の実数、$\sigma_{i,j}\ (i \neq j)$は実数を満たす必要があります。設定した値に従う相関係数などを計算します。
標準偏差と相関係数の計算
次に、分散と共分散を用いて標準偏差と相関係数を計算します。
注目する成分番号(インデックス)$i, j$を指定します。
# 次元を指定 i <- 1 j <- 2
行番号をi
、列番号をj
とします。
分散$\sigma_i^2, \sigma_j^2$を抽出します。
# 分散を抽出 sigma2_i <- sigma_dd[i, i] sigma2_j <- sigma_dd[j, j] sigma2_i; sigma2_j
## [1] 4 ## [1] 9
インデックスを指定してsigma_dd
の対角成分(対角要素)を抽出します。
ちなみに、全ての対角成分はdiag()
で抽出できます。
# 分散を抽出 diag(sigma_dd)
## [1] 4 9 1
diag()
にマトリクスを渡すと対角要素を返します。マトリクスの形状に関わらず抽出できます。
共分散$\sigma_{i,j}, \sigma_{j,i}$を抽出します。
# 共分散を抽出 sigma_ij <- sigma_dd[i, j] sigma_ji <- sigma_dd[j, i] sigma_ij; sigma_ji
## [1] 1.8 ## [1] 1.8
インデックスを指定してsigma_dd
の要素を抽出します。$\sigma_{i,j} = \sigma_{j,i}$なのを確認できます。
標準偏差$\sigma_i, \sigma_j$を計算します。
# 標準偏差を計算 sigma_i <- sqrt(sigma2_i) sigma_j <- sqrt(sigma2_j) sigma_i; sigma_j
## [1] 2 ## [1] 3
分散の平方根をとります。
相関係数$\rho_{i,i} \rho_{i,j}, \rho_{j,i}, \rho_{j,j}$を計算します。
# 相関係数を計算 rho_ii <- sigma2_i / sigma_i / sigma_i rho_ij <- sigma_ij / sigma_i / sigma_j rho_ji <- sigma_ji / sigma_j / sigma_i rho_jj <- sigma2_j / sigma_j / sigma_j rho_ii; rho_ij; rho_ji; rho_jj
## [1] 1 ## [1] 0.3 ## [1] 0.3 ## [1] 1
分散を対応する標準偏差で割ります。
$\rho_{i,j} = \rho_{j,i}$、$\rho_{d,d} = \frac{\sigma_d^2}{\sigma_d \sigma_d} = 1$になるのを確認できます。
$D \times D$の相関係数を並べた行列を相関行列と言います。
対角成分が1の対称行列です。
分散共分散行列と相関行列の計算
最後に、分散共分散行列と相関行列を計算します。
計算に利用する2つの対角行列、標準偏差$\sigma_d$を対角成分とする行列$\mathbf{S}$と、標準偏差の逆数$\frac{1}{\sigma_d}$を対角成分とする行列$\mathbf{S}^{-1}$を作成します。
対角行列の逆行列は、対角成分の逆数を対角成分とする対角行列になるので、$\sigma_d$の行列と$\frac{1}{\sigma_d}$の行列は逆行列の関係です。
分散共分散行列$\boldsymbol{\Sigma}$を使って、$\sigma_d$の行列$\mathbf{S}$を作成します。
# 標準偏差が対角成分の行列を作成 s_dd <- sigma_dd |> diag() |> # 対角成分(分散)を抽出 (\(.){sqrt(.)})() |> # 標準偏差を計算 diag() # 対角行列を作成 s_dd
## [,1] [,2] [,3] ## [1,] 2 0 0 ## [2,] 0 3 0 ## [3,] 0 0 1
sigma_dd
の対角要素(分散)をdiag()
で抽出します。D個の分散からそれぞれ標準偏差を計算して、diag()
で対角行列を作成します。diag()
にベクトルを渡すと対角行列を返します。
標準偏差の計算処理では、無名関数function()
の省略記法\()
を使って、(\(引数){引数を使った具体的な処理})()
としています。直前のパイプ演算子を%>%
にすると、行全体(\(引数){処理})()
を{}
の中の処理
(この例だとsqrt(.)
)に置き換えられます(置き換えられるように引数名を.
にしています)。
同様に、$\frac{1}{\sigma_d}$の行列$\mathbf{S}^{-1}$を作成します。
# 標準偏差の逆数が対角成分の行列を作成 s_inv_dd <- sigma_dd |> diag() |> # 対角成分(分散)を抽出 (\(.){1 / sqrt(.)})() |> # 標準偏差の逆数を計算 diag() # 対角行列を作成 s_inv_dd
## [,1] [,2] [,3] ## [1,] 0.5 0.0000000 0 ## [2,] 0.0 0.3333333 0 ## [3,] 0.0 0.0000000 1
こちらは、標準偏差の逆数を計算して、対角行列を作成します。
$\mathbf{S}$がある場合は、逆行列を計算して$\mathbf{S}^{-1}$を作成できます。
# 標準偏差の逆数が対角成分の行列を計算 s_inv_dd <- solve(s_dd) s_inv_dd
## [,1] [,2] [,3] ## [1,] 0.5 0.0000000 0 ## [2,] 0.0 0.3333333 0 ## [3,] 0.0 0.0000000 1
s_dd
の逆行列をsolve()
で計算します。
逆に、$\mathbf{S}^{-1}$から$\mathbf{S}$も計算できます。
# 標準偏差が対角成分の行列を計算 s_dd <- solve(s_inv_dd) s_dd
## [,1] [,2] [,3] ## [1,] 2 0 0 ## [2,] 0 3 0 ## [3,] 0 0 1
逆行列の逆行列を計算すると元の行列になります。
利用する行列を用意できたので、分散共分散行列から相関係数を計算します。
# 相関行列を計算 rho_dd <- s_inv_dd %*% sigma_dd %*% s_inv_dd rho_dd
## [,1] [,2] [,3] ## [1,] 1.00 0.3 -0.05 ## [2,] 0.30 1.0 0.80 ## [3,] -0.05 0.8 1.00
分散共分散行列$\boldsymbol{\Sigma}$の左右から$\mathbf{S}$の逆行列を掛けると、相関行列$\mathbf{P}$が求まります。
rho_dd[i, j]
がrho_ij
の値になっているのを確認できます。
相関行列から分散共分散行列を計算します。
# 分散共分散行列を計算 sigma_dd <- s_dd %*% rho_dd %*% s_dd sigma_dd
## [,1] [,2] [,3] ## [1,] 4.0 1.8 -0.1 ## [2,] 1.8 9.0 2.4 ## [3,] -0.1 2.4 1.0
相関行列$\mathbf{P}$の左右から$\mathbf{S}$を掛けると、分散共分散行列$\boldsymbol{\Sigma}$が求まります。
元の値になるのを確認できます。
この記事では、分散共分散行列と相関行列の関係を確認しました。次は、ユークリッド距離とマハラノビス距離との関係を確認します。
参考文献
- C.M.ビショップ著,元田 浩・他訳『パターン認識と機械学習 上』,丸善出版,2012年.
おわりに
こんなに労力を割くつもりはなかったんだけどなぁ。しかしまだ続きます。
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